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3月, 2024の投稿を表示しています

サッカー選手を夢見た少年

 とある世界のおはなし。  サッカーが好きな少年がいた。将来の夢は『プロサッカーチームですごい活躍をして、お金持ちになること』だった。  中学、高校でも一生懸命にサッカーを続けたが、プロサッカー選手になることはかなわなかった。  高校を卒業して、健康食品を販売する会社で営業マンとして働くことになった。  体力と根性には自信があったので、たくさんのお客さんをまわり、色々な意見を聞き、少しでも商品を売ろうと頑張った。  そのうち食品の知識も身につき、自分がサッカーをやっていた頃になにを食べるべきだったか考え、商品開発の人たちとも相談するようになった。  そんな忙しい毎日を送ったが、週に一回、かならず仲間たちとサッカーを楽しんだ。  青年から中年になるころ、もっとスポーツ選手のための商品をつくりたいと考え、仲間を集めてスポーツ選手専門のサプリ会社をつくった。  はじめは上手くいかなかったが、体力と根性には自信があったので、たくさんのチームをまわり、いろいろな意見を聞き、少しでも良い商品をつくろうと頑張った。  おかげで徐々に売れるようになったが、もっと多くの選手が活躍できる商品を作りたいと、儲けた分は商品開発に注ぎ込んだ。  そんな忙しい毎日を送ったが、週に一回、かならず仲間たちとサッカーを楽しんだ。  いつしか中年から老年になり、その頃には会社も大きくなっていた。  あちこちのチームや選手から注文をもらい、そのたびに丁寧に商品をつくった。  社長としてお金持ちになったので、財産を投じてプロサッカーチームのオーナーになった。  チームが強くなるための支援は惜しまず、同時に最新のサプリも提供したので、チームが強くなるほど会社の売り上げもあがった。  そんな忙しい毎日を送ったが、週に一回、かならず仲間たちとサッカーを楽しんだ。  それからさらに年をとったので会社は若い人に譲り、サッカーチームだけをみるようになった。  自由な時間も増えたので、プロの選手たちに混ざって練習もした。  当然、プロの選手と同じようには動けないが、それでもオーナーが練習に参加すると話題になった。  おかげでシニアの大会に出場すると人気者で、年齢を感じさせないプレーを連発して周囲を驚かせた。  気がつくと『プロサッカーチームですごい活躍をして、お金持ちになること』を夢見た少年は、プロサッカーチームのオー...

予知能力100%

とある世界のおはなし。 予知夢を見る男がいた。めったに見ないが的中率は100%だ。 高校生のころ、好きな女の子と体育館の裏で2人きりの夢を見た。 翌日、彼女に呼びだされた。男子なら憧れのシチュエーションだ。平静を装いながらもドキドキしながら彼女を見つめた。 新興宗教の勧誘だった。 一気に冷めた…が、あたってはいる。 大学生のころ、絶望に打ちひしがれ岸壁で海を見おろす夢を見た。 死ぬ気などさらさらないし、自殺など考えたこともない。 数日後、友だちの誘いでキャンプにいくとあの岸壁があった。だが絶望などしていない。 あてつけに岸壁に立つと、携帯が鳴り、手が滑って海に落ちた。 絶望して海を見おろした。 死にたくなった…が、あたってはいる。 数年前、宝くじを見て大喜びしている夢をみた。 さっそく宝くじを買い、当選発表の日に番号を探した。 大当たり1等! 信じられない!! 心臓が爆発しそうで吠えた!!! 念のためもう一度確認した。 見間違いだった。 そんなもんだ…が、あたってはいる。 昨日、暗闇を恐怖で走る夢をみた。 どうせまた、と気にせず出勤した。急な仕事が入り残業となった。 暗い夜道を帰る途中、急に不安になった。 ふと不審者が出るとの噂を思い出した。まさか、おじさんを襲う変質者もいないだろうと自分を納得させた。 外灯の下でうごめく影があった。 なんだ? クマっ! マジ!? ガチヤバ!! なんで??? そういえば人を怖がらないクマが山を下りるとかニュースが!!! 今来た道を必死で走った…が、あたってはいる。

小さな石ころ

  とある世界のおはなし。  ある若い男が仕事場に行く途中、老人に呼び止められ、山の洞窟にある袋を取ってきてほしいと頼まれた。  とても大切なものらしいので、仕事を休んで取りに行くことにした。  老人が言っていたとおり、山の中に狭い洞窟があり、中にボロボロの麻袋があった。  なぜこれが大切なのか理解できなかったが、持ち帰ると老人はとても喜んだ。そして空っぽだと思っていた袋から、小さな石ころを取りだし、お礼だと手渡した。 「どこにでも落ちている小さな石ころに見えるが、ひとつだけ望みをかなえてくれる不思議な石ころじゃ。願いをかなえると消えてなくなるので、よくよく考えて使うのじゃぞ」  本当にそんなことがあるのだろうか? 男は半信半疑だったが、いつも首からぶら下げているお守り袋に石を入れ持ち歩くようになった。  それからしばらく、男は仕事を辞めたくなった。鍛冶場で働いているが、雑用ばかりで鍛冶師の仕事はさせてもらえない。それに嫌気がさしたのだ。  とはいえ、お金もないので辞めると食べていけない。そこであの小さな石ころをとりだし『お金を出してもらおうか』と考えた。  だがお金は使えばいつかはなくなる。『ひとつだけの望み』をそのために使うのももったいない気がし、お守り袋の中にもどした。  辞めることはいつでもできると、とりあえず一生懸命働いていると、徐々に鍛冶師として仕事をまかされるようになり、いつしか立派な職人となっていた。  それからしばらく、職人として一人前になったので、お嫁さんがほしいと思うようになった。  しかし見た目も普通で口下手、おまけにいつも鍛冶仕事で汚れている自分に自信がない。そこであの小さな石ころをとりだし『素敵なお嫁さんをだしてもらおうか』と考えた。  だが『素敵なお嫁さん』とはどういう人か考えてしまった。顔が綺麗なひと? 性格がいいひと? よく働くひと? まず石を使うまえに、どういう人がよいのか知りたいと思った。  そこで職場の人や親せきに、よい人がいないかお願いすると、とても素敵な人に出会えた。  けっきょく、小さな石ころを使わず『素敵なお嫁さん』と結婚した。  それからしばらく、3人の子宝にも恵まれ幸せな日々を送っていた。  しかしふと、この子たちが無事に育ち、幸せに生きていけるか心配になった。そう思うといてもたってもいられない。  男はあ...

ひとりでに鳴る太鼓

  とある世界のおはなし。  山に小さな祠(ほこら)があった。そこには太鼓が納められていた。  いろいろと言い伝えのある太鼓で、周辺の村人たちは大切にしていた。  あるとき、誰も居ないのに太鼓の音がすると噂になった。なにか悪いことの前兆ではと村人たちは不安になった。  ちょうど旅の僧が訪れたので相談したところ『山の神を怒らせた者がいるかもしれん』と神妙な顔で答え大騒ぎとなった。  ある村人が言った。 「最近、子づれの猪を撃った猟師がいる。子どもの猪は難儀してるだろう」  子づれの動物は撃たないのが山の掟だ。これこそ山の神を怒らせたに違いないと、村人たちは猟師を責めたてた。  猟師は『藪で子どもに気づかなかった』『わざとではない』と弁明したが、罰として鉄砲を取り上げられてしまった。  鉄砲を失っては狩りもできず、猟師は村をさった。  しかし太鼓の音は鳴りやまず、それどころか強くなっているらしい。  するとある村人が言った。 「去年のこと、若い夫婦がお参りしたら、直後に子どもを授かった。きっとそこでまぐわったに違いない」  神聖な祠でまぐわるとはなにごとか。これが山の神を怒らせたに違いないと、村人たちは夫婦を責めたてた。  夫婦は『そんなことはしていない』『妻が子を宿したので無事に生まれるよう参拝したのだ』と弁明したが、罰として田畑を取り上げられてしまった。  田畑を失っては生きていけず、夫婦は村をさった。  しかし太鼓の音は鳴りやまず、前よりも苛立つように鳴っているらしい。  するとある村人が言った。 「5年ほどまえ、炭焼きが山の木を焼いてしまった。危うく山火事になるところだった」  山火事なら山の神が怒って当然だ。これが山の神を怒らせたに違いないと、村人たちは炭焼きを責めたてた。  炭焼きは『強風で火の粉が飛びすぐに消した』『お詫びとして祠に酒を納めた』弁明したが、罰として炭焼き小屋を壊されてしまった。  炭焼き小屋を壊されては仕事ができず、炭焼きは村をさった。  ところがそれでも太鼓の音はやまない。それどころかさらに怒っているようだと。  するとある村人が言った。 「10年ほどまえ、台風で祠が壊れたので直したが、直し方が気にいらなかったのでは」  祠は周辺の村人が全員で直したのだから、全員が悪いということになる。  しかし村人たちは『あいつがいい加減に直したせいだ...

だれが速い

  とある世界のおはなし。  天の神様が動物たちを見おろしふとつぶやいた。 「誰が一番速いのだろうか?」  それを聞いた耳のいいウサギが『ボクに決まってる』と言った。  それを聞いたウマが『ボクより速く走れる動物がいるわけない』と言った。  それを聞いたツバメが『ウマも速いけど鳥にかなうわけない』と言った。  それを聞いたタカが『上空から急降下するタカの速さにかなうわけない』と言った。  それを聞いたウシが『まてまて。みんな速いが、距離が長くなるほど何日も歩けるウシが一番』と言った。  それを聞いたワタリドリが『長い距離ならワタリドリが一番に決まってる』と言った。  それを聞いたシカが『みんな障害物のない広い場所だろ。いりくんだ森の中ならシカが一番』と言った。  それを聞いたヤギが『場所を選べるなら岩山はヤギだろ』と言った。  それを聞いたマグロが『なら海もいれたらマグロが一番』と言った。  それを聞いたネズミが『そもそも体が大きい動物が有利な条件だ。体の長さの何倍を走るかで速さを競うなら、ネズミだって速いぞ』と言った。  それを聞いたネコが『ネズミが速いなら、それを捕まえるネコがいちばん速い』と言った。  それを聞いた…  神さまは面倒臭くなってつぶやいたことを後悔した。

お姫様を夢見た少女

  とある世界のおはなし。  港町に少女がいた。『いつか素敵な王子様がむかえにきてお姫様になる』と夢みながら貿易商で働いていた。  ある日、友だちの結婚式にとびきり綺麗な服で出席した。そこで普段は飲まない酒を飲んだ。  おかげで酔っぱらい、帰る途中で眠くなって道端の樽に入り寝てしまった。  翌日、目が覚めると樽は船に載せられ、少女は海の上にいた。  積み荷から少女がでてきたと船中が大騒ぎとなった。  たくましい船乗りたちに囲まれ少女は泣きそうになったが、勇気をふりしぼり強い口調で言った。 「わたしに乱暴することは許しません!」  綺麗な服で毅然とした態度をとる少女に、船乗りたちは『どこか裕福な家の娘かもしれない』と思った。  なぜ船にいるかは分からないが、とにかく粗末にはあつかえない。船でいちばんいい部屋を与え、積み荷からいちばん高級な服を着せ、まるでお姫様のように大事にした。  少女も大事にされると嬉しくなり、なんとか恩返しがしたいと思った。  そんなとき、海賊が船を襲ってきた。  武器を手にした海賊たちが船に乗り込んできて大騒ぎになった。  荒くれな男たちに囲まれ少女は泣きそうになったが、勇気をふりしぼり強い口調で言った。 「この船を襲うことは許しません!」  高級な服を着て毅然とした態度をとる少女に、海賊たちは『どこかの領主の娘かもしれない』と思った。  なぜ船にいるかは分からないが、とにかく粗末にはあつかえない。あじとに連れ帰り貯め込んだドレスや宝石で着飾らせ、まるでお姫様のように大事にした。  少女も大事にされると嬉しくなり、なんとか恩返しがしたいと思った。  そんなとき、軍隊が海賊を退治するため攻めてきた。  たくさんの兵隊が攻撃してきて海賊たちは大騒ぎになった。  屈強な兵たちに囲まれ少女は泣きそうになったが、勇気をふりしぼり強い口調で言った。 「この者たちに危害をくわえることは許しません!」  ドレスと宝石を身に着け毅然とした態度をとる少女に、兵たちは『どこかの国のお姫様かもしれない』と思った。  さっそく司令官に報告すると、海賊と間違えて他国の船乗りを攻め、おまけにお姫様に危害をくわえたら戦争になると慌てた。  そこで海賊たちに『本当は海賊ではない』と約束させて帰っていった。  おかげで命は助かったが、約束したので今後は海賊はできない。これ...

暗い山道

 とある世界のおはなし。  親孝行の青年がいた。田舎を離れ都会で働いていたが、休みがとれると帰った。  最初のころはバスで帰っていたが、お金を貯めて車を買い、前よりはやく帰れるようになった。  その日も週末の休みがとれ、仕事が終わると急いで車を走らせた。  1週間の疲れはあったが暗くなった細い山道を急いだ。  道は右に左に曲がりくねり、おまけに外灯も少ない。ヘッドライトの光を頼りに注意深くハンドルを切り続けた。  対向車もない暗い夜道を走り続けると、だんだんまぶたが重くなってくる。  はじめは大声で歌をうたい気をまぎらわせたが、それで1週間の疲れが消えるわけもなく、徐々に眠気にあらがえなくなっていった。    首筋がゾクリとした。  ハッと目を開くと前に崖が!  慌ててブレーキを踏みハンドルを切る。タイヤが悲鳴をあげ、崖の直前で止まった。  一瞬のことでしばらく茫然としていたが、落ち着いたところで崖のほうに目をやった。  そこには小さなお地蔵さんが祀られている。  今まで何度も通った道だが気づかなかった。車を降りてみると、まだ新しい花が添えられている。  なるほど、最近事故があったのか。  もしかしたら自分と同じように故郷に帰る途中、事故を起こしてしまったのかも。  同じ事故をおこさせないよう目覚めさせてくれたかも。  そう思うと、自然と両手をあわせ『ありがとう』と呟いた。  後ろから声がした。 「あんたも死ねばよかったのに…」  以後、青年はその道を通らなくなった。

わんにゃん瓢箪記

  とある世界のおはなし。  男は村のはずれで、イヌとネコとニワトリを飼って暮らしていた。  三匹は喧嘩もせず仲良くすごしていたが、ある日ニワトリがイヌとネコに告げた。 「旦那様のおかげで幸せに過ごしてこれたが、わしも年をとり長くない。恩返しと思い裏山の秘密を教える。お前たちで旦那様に伝えてほしい」  その秘密とは、裏山には瓢箪がなるが、千年にいちど赤い瓢箪がなる。今年がちょうど千年目だ。その赤い瓢箪は一日に一度、金粒を吐き出すようになると。  しばらくしてニワトリは息を引き取った。  ニワトリの喪があけると、ネコは山にはいり赤い瓢箪を探しだした。それは小さな瓢箪だった。イヌが男を引っぱりそこに案内する。男は赤い瓢箪は珍しいと持って帰った。  だが瓢箪は小さくて酒入れにもならない。  しかたなく飾っておくと、翌朝コトリと音がした。男が不思議に思い瓢箪を逆さにすると金粒が出てきた。翌日は二粒、その翌日は三粒と、瓢箪はどんどん金粒を増やしていった。  おかげで男は金持ちになりイヌとネコも喜んだ。  村人たちは男がどこか金のとれる場所を見つけたらしいと噂し、運のいい奴だと羨んだ。  ある日、美しい女が家を訪れた。  旅の途中で仲間とはぐれ、行き場もなく困っていると。男は好きなだけいればいいと女と暮らすようになった。  女はかいがいしく働くので男は気に入ったが、イヌとネコをイジメるので2匹は嫌いだった。  しばらくすると男は、女を信じて瓢箪の秘密をばらしてしまった。すると翌朝、女は瓢箪とともに消えた。  おかげで男は貧しい生活に戻った。  イヌとネコは女を許せないと、仕返しして瓢箪を取り戻すため家を出た。  まず犬が女の匂を追った。すると大きな街に着いた。そこで女は大きな屋敷で贅沢な暮らしをしていた。  だがイヌとネコは中に入れない。どうやって瓢箪を取り返そうか悩んでいると、屋敷からネズミがでてきた。  ネコがすかさず捕まえると、ネズミは何でもすると命乞いをした。  そこでネズミに、家の中にある赤い小さな瓢箪を持ってくるよう命じると、おやすい御用と瓢箪を取り戻してきた。  イヌとネコは大喜びで瓢箪をくわえ走った。しかし女もすぐ気づき、あとを追いかけてくる。  人の足では追いつけまいと思っていたが、街を出ると女は鬼女へと変わり追ってくる。  ネコは長い距離を走るのが苦...

黒蛇の指輪

  とある世界のおはなし。  心優しい男がいた。いつか困っている人々の役に立ちたいと思いながらも、忙しい日々を送っていた。  そんな男の楽しみは街の近くの森を散歩することだった。その日もたまの休みに森の中を歩いていた。  するとどこからか悲しげな鳴き声が聞こえる。のぞいてみると猟師の罠に子ギツネが捕まっている。  可哀そうだと思い放してやると子ギツネは森の中に消えていった。  それからしばらく、また森を歩いていると目の前に立派なキツネが現れた。あの時の子ギツネの母だと名乗り、子供を助けてくれた礼を言った。男は子ギツネが無事だと知り喜んだ。  母ギツネは去りぎわにあることを教えてくれた。 「このまま森の奥へと進むと大きな木で道が2つに分かれます。その木の周りを、四つん這いで右に2回、左に3回まわってください。すると3つ目の道があらわれますので、その奥に悪鬼の住む洞穴があります。悪鬼はハーブが大嫌いなので洞穴に投げ込むと逃げてしまいます。洞穴の中に『黒蛇の指輪』があるので、それだけを持って帰ってください」  男はいつも散歩する森に悪鬼がいたのかと怖くなり、その日はいったん帰った。    次の休みの日、ポケットにできるだけハーブを詰め込み森へ入った。  母ギツネの教えどおり道が2つに分かれ、木を四つん這いでまわると3つ目の道があらわれた。それを進むと洞穴があった。  恐る恐る中をのぞくと、何やら黒い大きなものがいる。  男がポケットのハーブを投げ込むと、耳をつんざく叫びをあげてその黒いものは飛び去ってしまった。  中には山のような金銀財宝があった。これがあれば貧しい人を助けられると思ったが、母ギツネの言葉を思い出し『黒蛇の指輪』を探した。  それは他の金銀財宝とは別に、大事そうに置かれていたのですぐ分かった。  炭のように黒い、蛇のかたちに細工された指輪だった。  男は指にはめてみたがなにもおこらない。これがそれほど特別なものかと眺めているうちに、急に怖くなり慌てて洞穴を出た。  すでに日が暮れはじめ森は暗くなっていた。その中を走ったので、木の根に気づかず大きく転んで足を怪我してしまった。  骨が折れたのかと思うほどひどい痛みで、男はうめきながら手で押えた。  すると、黒蛇の指輪がふれたところから痛みが和らいでいく。なんどかさするうちに痛みは消えた。  男は街にも...