小さな石ころ
とある世界のおはなし。
ある若い男が仕事場に行く途中、老人に呼び止められ、山の洞窟にある袋を取ってきてほしいと頼まれた。
とても大切なものらしいので、仕事を休んで取りに行くことにした。
老人が言っていたとおり、山の中に狭い洞窟があり、中にボロボロの麻袋があった。
なぜこれが大切なのか理解できなかったが、持ち帰ると老人はとても喜んだ。そして空っぽだと思っていた袋から、小さな石ころを取りだし、お礼だと手渡した。
「どこにでも落ちている小さな石ころに見えるが、ひとつだけ望みをかなえてくれる不思議な石ころじゃ。願いをかなえると消えてなくなるので、よくよく考えて使うのじゃぞ」
本当にそんなことがあるのだろうか? 男は半信半疑だったが、いつも首からぶら下げているお守り袋に石を入れ持ち歩くようになった。
それからしばらく、男は仕事を辞めたくなった。鍛冶場で働いているが、雑用ばかりで鍛冶師の仕事はさせてもらえない。それに嫌気がさしたのだ。
とはいえ、お金もないので辞めると食べていけない。そこであの小さな石ころをとりだし『お金を出してもらおうか』と考えた。
だがお金は使えばいつかはなくなる。『ひとつだけの望み』をそのために使うのももったいない気がし、お守り袋の中にもどした。
辞めることはいつでもできると、とりあえず一生懸命働いていると、徐々に鍛冶師として仕事をまかされるようになり、いつしか立派な職人となっていた。
それからしばらく、職人として一人前になったので、お嫁さんがほしいと思うようになった。
しかし見た目も普通で口下手、おまけにいつも鍛冶仕事で汚れている自分に自信がない。そこであの小さな石ころをとりだし『素敵なお嫁さんをだしてもらおうか』と考えた。
だが『素敵なお嫁さん』とはどういう人か考えてしまった。顔が綺麗なひと? 性格がいいひと? よく働くひと? まず石を使うまえに、どういう人がよいのか知りたいと思った。
そこで職場の人や親せきに、よい人がいないかお願いすると、とても素敵な人に出会えた。
けっきょく、小さな石ころを使わず『素敵なお嫁さん』と結婚した。
それからしばらく、3人の子宝にも恵まれ幸せな日々を送っていた。
しかしふと、この子たちが無事に育ち、幸せに生きていけるか心配になった。そう思うといてもたってもいられない。
男はあの小さな石ころをとりだし、ついに『この子たちが、無事に育ち幸せな人生をおくっほしい』と願った。
だが願いを叶えると消えるはずの小さな石ころは残ったままだ。何度も何度も石に願いをこめるが、やはり消えない。
あの話はやはり嘘だったのかとあきらめ、お守り袋の中に戻すと、今までどおりの生活をおくった。
気がつくといつしか、子供たちも立派に成長していた。
それからしばらく、男も年をとり子や孫に囲まれた生活を送っていた。
これほどの幸せはないと思っているが、さすがに老いにはかてず体の節々が痛い。もっと孫たちと遊びたいと思っても体力が続かない。
そんなある日、あの小さな石ころのことを思い出した。今でも胸のお守り袋に残っている。とりだして『若い体』を願おうかと思ったがやめた。
今までいっしょに頑張ってきた妻も年をとっている。自分だけ若返っても申し訳ないと、お守り袋の中にもどした。
それからしばらく、男はしずかに息を引き取った。
お葬式のとき、家族はお守り袋の中をはじめて見て、どこにでもある小さな石ころに不思議がった。
なぜこんなものを大事に持っていたか誰も知らない。
だが奥さんは、この人にとってはきっと大切なものだったんだよと、胸元にもどした。
そしてその上に手を重ねると、眠る男にしずかに言った。
「あの世で待っていてくださいね」
誰にも気づかれず、小さな石ころは消えた。
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