スマホ投票
とある世界のおはなし。
若きIT起業家は考えた。
「選挙の投票をスマホからできれば若い人の投票率が上がる!」
さっそく試作アプリの開発をはじめた。
成りすましでの投票を防ぐため、マイナンバーと生年月日を利用しようと考えた。
投票した結果を役所の住民データと照合すれば、投票権を持つ人の判別もでき、集計も瞬く間に終わり予算削減にもつながる。
これは一石二鳥だと考えた。
若きIT起業家はこれを地域の選挙管理委員会に売り込んだ。
担当者は提案をひととおり聞き呟いた。
「同じ人が何度も投票できちゃうじゃない」
「2回投票できないようロックできますし、最後の投票を有効にするルール設定もできます」
「スマホの画面の名前だけで投票するって、正しく選べるとは思えないな」
「候補者の名前とサイトをリンクすれば、その場でどういう人かも確認でき、よりよい選択ができます」
「サイト? リンク?? まあしかし、若い人が投票するかね」
「投票所に行かなくてもよいので投票率は上がると思います。もし投票した人にマイナポイント等を付与すれば、より高い効果が期待できます」
「マイナポイントは私の管轄じゃないから…まあしかし、マイナンバーを使うって適当に入力して当たったらどうするの」
「マイナンバーは12桁1兆パターンあります。これに誕生日の月日365パターンを組み合わせれば、365兆パターンとなり『適当』は無視できる確率です」
「そうは言ってもねえ…そういえばスマホ投票で個人情報が漏洩したら大変だよ」
「投票結果はクラウド上に保管されますが、マイナンバー12桁と誕生年月4桁の組み合わせで個人を特定することは不可能です。この投票データをコピーし、ネットと切り離された役所内で住民データと照合し、投票結果を集計すれば問題ありません」
「しかしね、それでも漏洩したらどうするんだ」
「365兆パターンから個人を特定するなど、そもそも個人情報が漏れていなければ不可能です。なので住民データが漏洩していないかげりありえません」
「それでも、それでもだよ、漏洩したらどうするんだ」
「それは事前に漏洩があったことが前提です。事前に漏洩していたことが大問題です」
「しかし人がやることだから……そうだ! これ誰が誰に投票したかわかっちゃうんじゃない。そんなことできるとマスコミが黙ってないよ」
「それはコンプライアンスの問題では!? コンピュータは機械的に集計するだけで、誰かが意図的に個人情報と結びつけた結果を造らない限り、誰が誰に投票したかはわかりません。運用方法を誤らない限りありえません!」
「でもね…そうだね…お年寄りの方はスマホに不慣れだし、若い人に偏るのも公平性にかけるんじゃないかな」
「若い人の投票率が低い今、高齢者に偏りのある結果がでています。それでも問題であれば、はじめは従来の紙での投票と並行で行ってもいいかと思います」
「そうかもしれないけど…」
「もしこのアプリを導入すれば、選挙だけでなく住民投票や世論調査にも使えます。住民の声を直接的に聞くことは、よい事ではないですか」
「…そんな上手くいくかね…」
「投票所の開設や紙投票のコストや手間が省け、住民は気軽に投票できマイナポイントを得るメリットもあります。個人情報の漏洩は限りなく低いはずですが、そのつど暗号化キーを変えることで無視できるほど漏洩は防げます。さらに選挙が終わればクラウド上のデータを削除すればよいだけです」
「暗号キー??? まあ分かった…まず検討して連絡するよ」
その後、若きIT起業家に連絡はこなかった。
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