暗い山道

 とある世界のおはなし。

 親孝行の青年がいた。田舎を離れ都会で働いていたが、休みがとれると帰った。

 最初のころはバスで帰っていたが、お金を貯めて車を買い、前よりはやく帰れるようになった。


 その日も週末の休みがとれ、仕事が終わると急いで車を走らせた。

 1週間の疲れはあったが暗くなった細い山道を急いだ。

 道は右に左に曲がりくねり、おまけに外灯も少ない。ヘッドライトの光を頼りに注意深くハンドルを切り続けた。

 対向車もない暗い夜道を走り続けると、だんだんまぶたが重くなってくる。

 はじめは大声で歌をうたい気をまぎらわせたが、それで1週間の疲れが消えるわけもなく、徐々に眠気にあらがえなくなっていった。

 

 首筋がゾクリとした。

 ハッと目を開くと前に崖が!

 慌ててブレーキを踏みハンドルを切る。タイヤが悲鳴をあげ、崖の直前で止まった。


 一瞬のことでしばらく茫然としていたが、落ち着いたところで崖のほうに目をやった。

 そこには小さなお地蔵さんが祀られている。

 今まで何度も通った道だが気づかなかった。車を降りてみると、まだ新しい花が添えられている。


 なるほど、最近事故があったのか。

 もしかしたら自分と同じように故郷に帰る途中、事故を起こしてしまったのかも。

 同じ事故をおこさせないよう目覚めさせてくれたかも。

 そう思うと、自然と両手をあわせ『ありがとう』と呟いた。

 後ろから声がした。


「あんたも死ねばよかったのに…」


 以後、青年はその道を通らなくなった。



コメント

このブログの人気の投稿

始まりの木

黒蛇の指輪

使役魔

慈悲の王