貧しい村

 とある世界のおはなし。

中央から離れた貧しい村があった。日々どうにか暮らしていたが、およそ娯楽や贅沢とは縁遠い村だった。

どの家もお金はなく、なにかあればたちまち食べる物にも困る状態だった。


その為、困っている家があると『明日は我が身』と村人たちは助けあった。

なにか不足している家があれば、皆で持ち寄り貸し与えた。子どもは村人全員で育てた。病気や年老いて働けない者がいれば当番を決め世話をした。

おかげで村人たちには『何かあっても皆が助けてくれる』という安心感はあり、人々は不安なく明るく、そんな大人たちのした子どもたちも笑っていた。


ある男が村を出て中央へと移り住んだ。

継がせる財産がない家では、子供が村を出て生計を立てるのはよくあることだった。

それから月日が流れ、男は中央で成功し帰省した。幼いころ面倒を見てくれた村の人々にも多くの土産を持って帰った。

村人たちは『立派になった』『村の誇りだ』と口々に褒めたたえ喜んだ。


喜んでもらうと男も嬉しくなる。さらに仕事に精を出し、成功し、土産を持っては帰省するようになった。

以前の男のように、村を出る若者がいれば中央で住む場所や働く先を世話した。

中央の役人に働きかけ、村に新しい道を引いたり、病院を建てたりもした。

私財を投げうち工場を建て、若者が村を離れなくても働ける場所を造った。

村の生活は格段に豊かになり、人々は『まるで天子様だ』と男に感謝した。


生活が豊かになると、村人たちは多少の貯えもつくれるようになった。

お金を貯め、必要な物や欲しい物を買うようになった。

するとされに別の欲しくなり、それが次のやる気となり、さらに稼ごうと働いた。

おかげでますます豊かになり、いつしか男の手を離れ自力で発展していったが、忙しさのあまり、徐々に周囲の人を気にしなくもなっていた。


その後も村は発展し続け、すでに多くの村人が必要な物、欲しい物を手に入れていた。

各家で持っている物の差はほとんどなく、以前んのように貸し借りをすることもなくなっていた。

それでも『何かあったら』と人々はお金を貯めつづけ、いつしか貯めるために働くようになっていた。


気が付くと村人たちは『あの家は稼いでいる』『この家は貯め込んでいる』と噂するようになっていた。

一所懸命に働いているのに陰で噂されると気分が悪くなる。噂された家は徐々に距離をおくようになる。

すると村人たちは『金持ちは付き合いが悪い』と悪態をつきながら、別の家がお金を持っていると噂しはじめる。

するとその家も距離を置き、また別の家の噂をし…いつしか村人たちは表面だけの付き合いをするようになっていた。


この頃には男も年をとり商売を引退していた。

最後に村を訪れたころんは、自分を宛にせずとも発展した村を見て喜んだ。

しかし同時に寂しさも感じた。もう男に感謝し、褒めたたえ、出迎えてくれる村人はいないが、それではない。

あの頃、男が村に入ると『中央の人が来た』と好奇心に目を輝かせ、キャッキャとはしゃぎながら駆け寄ってきた子ども達が集まり、大人たちは満面の笑みで出迎えてくれた。

だが今は、子供たちは見知らぬ者を警戒し、大人たちは忙しく見向きもしない。


この村は本当に豊かになったのだろうか?


その疑問を抱えたまま男はこの世を去った。

村の数人の老人たちがわずかな貯えを持ち寄り、男のこれまでの功績と感謝を刻んだ碑を建てた。



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