いたずら小悪魔

 とある世界のおはなし。

森に小悪魔が住んでいました。通りかかる人を化かし、いたずらしては喜んでいるので、周辺の村の民は困っていました。

ある時ひとりの騎士が通りかかり、小悪魔のはなしを聞いて笑いました。

「小悪魔に化かされるなど愚か者の証拠だ。オレは絶対に騙されないので退治してやろう」


騎士は森に入ると、木の上にのぼり小悪魔があらわれるのを待ちました。

ほどなくして黒い小悪魔があらわれ、周囲をうかがうと魔術を使い若い娘に化けました。

息を殺して様子をうかがっていた騎士は、なるほどこうやって人を化かすのかと納得しました。

小悪魔はそのまま森をでて村はずれへと向かい、一軒の小さな家の戸を叩きました。

中から老婆があらわれ、嫁いだ娘が訪ねて来てくれたと喜び、小悪魔を中に入れました。


後をつけていた騎士は『こうも易々とだまされるとは、村の民はどれほど愚かなのか』と呆れ、そっと家の中の様子をうかがいました。

老婆は『疲れただろう』『嫁ぎ先では上手くやっているか』と、自分の娘と信じて気にかけています。

しかし娘はあいまいな返事を繰り返し、老婆の優しさを利用するように生活の苦しさをうったえ、金の無心をはじめました。

老婆は『可哀そうに』と箪笥の奥から貯め込んでいた小銭をかきだし、『これだけしかないが足りるかい』と差し出しました。


これを見ていた騎士は家に飛び込みました。

「騙されてはいけない! こいつは娘に化けた小悪魔だ! 金を渡してはいけない」

しかし老婆は本当の娘と信じて疑いません。逆にいきなり家に入ってきた騎士を、盗賊か泥棒だと思い騒ぎ立てます。

そこで騎士は、娘が小悪魔である証拠を見せようと、剣を抜くと娘を斬り捨てました。

娘はまっ赤な血を吹き出し、断末魔の声をあげて息絶えてしまいました。


血の沼で息絶えた娘を抱きしめながら泣き叫ぶ老婆を見て、騎士は青くなりました。

小悪魔に騙され、本当の娘を斬ってしまったと。

老婆に申し訳ないと何度も詫びますが、娘を生き返らせろと老婆はおさまりません。

しかし死んだ娘を生き返らせることなどできません。

ついに騎士は、償いとして自分が治める領地を老婆に譲ると言い出しました。

すると、家も老婆も死んだ娘も消え、あの小悪魔がケラケラと笑い、森の奥へと消えていきました。


騙されたことに気づき我にかえった騎士は、おおいにプライドを傷つけられました。

自分の領地に戻ると金をつかって兵を集め、小悪魔の森へと向かい、またたくまに森を焼き払ってしまいました。

おかげで豊かな森は消え失せ、周辺の村の人々は困り果ててしまいました。


森から逃げ出した小悪魔は思いました。

「オレは人を化かして笑うだけだが、それだけで森を焼き、周辺の人々を困らせるとは、人はなんと恐ろしい生き物か」と。


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