悪の大魔王の憂鬱(中編)
とある世界のおはなし。
城にとどまり王となった私は、人々にはこれまで通り仕事をするよう命じた。
すると役人たちが恐る恐る『魔王様ご相談が…』とやってきた。話を聞くと問題が山積みだ。
特に税収の問題。大きな城とそこで働く人々を維持するための収入を得るには、年貢を厳しく取り立てるしかないらしい。
だが疫病のあとで国民は苦しんでいる!
私は3年間、無税にするよう命令した。不足する収入は城に蓄えられた金銀財宝を売ることでまかなえと命じた。反対する役人もいたが、私は金銀財宝に興味がない。
さらに城の兵たちにも、故郷に帰って畑仕事をしてよいと伝えた。おかげで半分の兵がいなくなった。
これでは外敵から城を守れないと反対する隊長もいたが、そのときは私が戦う!
そして残った半分の兵たちには、城よりも国の治安を守るよう命じた。
貧しさから盗賊となる者もいるという。それらを取り締まらねばならんが、なるべく傷つけず、会心する者は人手が足りない村で働かせた。
おかげで悪さをする奴は徐々に減っていった。
一方で税収の計算もなく城の役人がヒマそうなので、私は文字の読み書きや計算を教えろと言った。
はじめは恐々教えていた役人も、私がまじめに学んでいるうちに打ち解け、仲良くなった。
文字とはなんと偉大な発明か。書物からは色々なことを知ることができる。
過去に成功したこと、失敗したこと、また異国のこと、そこに見たこともない美味いものがあること。私は急速に知識を増やしていった。
一方で食事は豪華なものは控えさせた。美味いといっても毎日は飽きる。普段は村人と変わらぬ薄味が口にあう。しかし量はつくらせ、役人や兵たちと一緒に食べた。おかげで彼らの故ことも知ることができた。
それから数年、民の生活も戻りはじめたので徐々に税の徴収を再開した。その頃には計算もでき、投資というものも理解していた。そこで収入のほとんどを港や街道の整備に投資し、異国との交易を活発化させた。
異国とのやり取りが増えると民が潤う。すると低い税率でも税収は増え、自然と城の収入も増えていった。収入が増えたのだから役人や兵の給料も上げてやった。
私自身は、たまに異国の珍しいものが食べられれば満足だった。
だがこの頃から、豊かになりはじめた我が国を、周辺の国が狙うようになった。
我が国は豊かだが小さく、海に面した南以外は大きな国に囲まれている。
東の大国が難癖をつけてきて、金を払わなければ侵攻すると脅してきた。北の大国と連携しているとの噂もある。西の大国は金を払えば助けてやるといってきた。
役人も隊長たちも大慌てだ。東と北の大国は独裁的で他国に無慈悲だ。せめて西の大国に金を払い助けを求めようと助言してきたが、私は国境の兵を増やし、何があっても守りに徹しろとだけ命じた。
すると東の大国が攻撃をしかけてきた。
私はすぐさま国境へと駆けた。兵たちは命令どおり守りに徹していたが、十倍を超える敵に苦戦していた。
私はひとりで斬り込んだ。この日のために作らせた100キロの鉄こん棒と太い尻尾を振りながら、敵兵と次々となぎ倒し大軍を切り裂いて進んだ。
矢を射り、槍を突き立て、剣で斬りかかって来るが、何者も私を傷づけることはできず、止めることもできない。
敵将は逃げる間もなく私の前にひれ伏すこととなった。
敵将を討ったところで、しばらくするとまた別の軍隊を送ってくることは分かっている。面倒くさいので、捕まえた敵将に案内させ東の王のもとに行くことにした。
途中で攻撃を受け、奴らの放った矢に当たりその将は死んでしまった。自国の将がいるのになんとも無慈悲な連中だと思ったが、新たに隊長らしい奴を捕まえ案内させた。
その途中、いくつもの村を越えたが、そこにいる人々、特に子供たちの痩せて貧しい姿に心を痛めた。
数日かけて東の王の居城にたどり着いた。なんとも大きな城だ。
いったいどれほど民から税を取り立てたのかと考えると、無性に腹がたった。
城からあいかわらず私を討とうと攻撃してくるが、岩より硬い皮膚はびくともしない。
私は怒りに任せて頭から城壁に飛び込み石垣を破壊した。崩れた城石が頭上から落ちて来て少し痛かったが、それほど気にならなかった。
まっしぐらに奥へと進むと、煌びやかに着飾った連中が逃げ惑った。それに見向きもせず、玉座で震える老いた男を見つけると、鉄こん棒で潰した。
はじめて人を殺めた。今思うとやりすぎだったかもしれないが、戦は終わり、私は東の大国を手中に収めた。
東の大国を手に入れたとはいえ、乱暴に扱うつもりはない。
その国の王子を新たな王にすると、我が国から優秀な役人を呼び寄せ新王を補佐するよう命じた。新王には『我が国の役人に何かあれば私が飛んでくる』と脅した。
呼び寄せた役人たちは、以前私がやったように税を下げ、不足する収入は財宝を売り払ってまかなった。
おかげで東の国の民は大いに喜び、徐々に豊かになっていった。
一方で我が国との関所も取り払い自由に行き来できるようにした。当初、両国民の間にイザコザはあったものの、真面目に働く者を差別しないよう御触れをだした。
素直な我が国の人々は、私を受け入れてくれたように東国の人々も受け入れ、徐々に垣根はなくなっていった。
もとの役人や貴族の中には、不満から悪さをする者もいたが、私が牙をむけばおとなしくなった。
こうして両国が互いに協力して発展し始めると、北と西の大国が動きはじめた。
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