たどりついた先

 とある世界のおはなし。

 貧しい農家の末っ子として生まれた少年は旅立った。せまい畑を兄弟で分けると食べていけないので、出ていくしかなかった。

 少年は豊で楽して生きている場所を探そうと考えていた。


 たどりついた村はなかなか大きく豊だった。そこで小作(土地を借りて耕作すること)として働くことにした。

 その村では他所から来る者は珍しいらしく少年は警戒されたが、まじめに働いていると『ああしたほうがいいよ』『こうしたほうがいいよ』と村人もなにかと世話をやいてくれた。

 慣れるとなかなか住みよい場所だが、小作料を払うと手もとにはわずかしか残らず生活は楽ではない。

 そこでもっと別の場所に行こうと村を出た。


 次にたどりついた村は前の村よりも、さらに大きく豊かだった。ここならもっと楽できるだろうと思い、小作として働くことにした。

 そこは豊かな場所なので人も多く、子供や年寄り、もとの住人、移住してきた人々、様々な人がいて、他所から来た少年を気にする者もいなかった。

 しかし人が多いと考え方や習慣も違うので、それらをまとめるため『あれをしてはダメだ』『これをしてはダメだ』となにかとルールも多かった。

 収穫が多く小作料を払っても十分に生活できたが、多すぎるルールを気にしながら生きていると、だんだん陰鬱な気持ちになっていった。

 そこでもっと別の場所にいこうと村を出た。


 どこか良い場所はないかと探していると、新しい島が発見され移住者を募集していた。

 少年はさっそくそこに移住した。そこは自然豊かで気候もよい。最近移住してきた者も多かった。

 しかし暮らしていくために必要なものはなにもない。ルールもない。すべて自分たちで作らなければならない。

 まず森の木を伐り家を建てた。狩りをしながら空腹を満たした。

 その間に農地を開拓し、水をひき、畑を耕し、種をまき……休んでいるヒマなどなく、いつも足りない物ばかり。失敗も多く楽をするヒマなどなかった。

 くじけて帰る者もいたが、残った者は力をあわせ『ああしたら上手くいくのでは』『こうすればもっと良くなるのでは』と知恵をだしあい協力しあった。

 楽をしたいとか考える余裕もなかった。


 みんなで必死に働いたので、徐々に農地も広がり、収穫量も増え、生活も安定していった。少年もいつしか青年となり、結婚し子供も生まれた。

 子供たちが大きくなるにつれ、同じ苦労はさせたくないと『ああしたほうがいいよ』『こうしたほうがいいよ』と教えるようになっていた。

 それからさらに時がたち、子供たちも立派な青年となる頃には、少年もいつしか老人となっていた。その頃には少しは楽になっていた。


 すると豊かな農地を求め、新しい島への移住者が続々と訪れた。

 人が増えるのはいいが、苦労して島を開拓した人々と、新しく入ってきた人々では考え方や習慣も違う。だからいつの間にかルールも増えた。

 老人となった少年も、孫たちに『あれをしてはダメだ』『これをしてはダメだ』と教えるようになっていた。


 しかしふと、多すぎるルールに陰鬱としてこの島に来たことを思い出した。

 老人はかわいい孫が旅立ってしまうと心配になり、なにも言わなくなった。


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