政治家の資質

 とある世界のおはなし。

彼は幼いころから人々を幸せにしたいと思っており、いつしか政治家になりたいと考えるようになった。


猛勉強の末、大学で政治を学ぶと同時に、時間があれば経済、福祉、軍事、自然科学等、とにかく役に立ちそうな知識を身につけた。

またバイトは、あえて時給の安い人が嫌がる仕事を選んだ。そこで働く人々の声や気持ちを知りたかったからだ。

たまの休みにはボランティアをしたり、ダムなどの公共施設を見学して歩いた。

卒業後は公務員となった。実際に内側を知りたかったからだ。あれが悪い、これを改善しろというのは簡単だが、実際になぜそうなるのか、どういう改善が可能なのかを体感したかったのだ。


そして30歳を超え、自分なりに「こうすれば多くの人の為になる」という答えを見つけ、彼は公務員を辞めて立候補した。

見栄えもパッとせず、口下手で演説も上手いとはいえない。しかし誠心誠意うったえれば届くはずだと信じて街頭に立った。

選挙資金も限られるので、とにかく自分でできることは寝る間を惜しんでやった。


この選挙には、彼と同じ年頃の立候補者がいた。はじめはライバルというより、同志のように感じ嬉しかった。

しかしその立候補者の演説を聞き落胆した。

容姿がよく耳障りのよい声でおこなう演説は人々の足を止め、瞬く間に評判になった。

だがその内容は、およそ実現不可能なことを派手に宣言し、その具体的な方法も示さず『できます、やります、任せて下さい』の一点張り。

ただ当選することが目的で中身のないようにしか感じない。

彼は、このような立候補者に負けるわけにはいかないと必死で選挙活動をつづけた。


そして投票結果がでた。彼は落選した。それも最下位だった。

一方で『できます、やります、任せて下さい』はトップ当選だった。

あきらかに自分のほうが優れた政策を持ち、それを実現する為の努力もしてきた。そして多くの人を幸せにしたいという気持ちも誰にも負けないつもりだ。

しかしそれは有権者に伝わらなかった。

そして気がついた。

どれほど努力し、よい政策案を持っていても、相手の心に届く術がなければ政治家にはなれない。

逆に中身はなくても、その術さえあれば政治家になれるのだと。



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