竜の沼
とある世界のおはなし。
森の中に大きな沼があった。木々に囲まれ昼でも暗く、いつしか人食いの竜が住むと云われるようになった。
これを耳にした王子様は「面白い!」とわずかな手兵をつれて沼に向かった。
しばらく沼のほとりで過ごしたが、竜は現れる気配がない。
ただの噂だったと引き上げることになったが、城に帰らず近くの村へと向かった。
その村は乾いた土地を耕す貧しい村だった。
王子様は村長に竜を見た者を探すよう指示した。しかし、あいつに聞いた、こいつに聞いたと、見た者はひとりもいなかった。
そこで王子様は命令した。
「竜はいない、恐れることはない。ならばあの沼から水を引けば村が豊かになる。その水路を造る工事のために村人は協力しろ」
しかし村人たちは、本当に竜がいたら大変だ、竜を怒らせれば命はないと恐れ、誰ひとり工事に協力しようとしなかった。
そこで王子様は城から兵たちを呼びよせ、竜が現れても村人を守れるようにした。
そしてあらためて村人たちに水路の工事に協力するよう呼びかけた。
すると村人たちは、竜は退治できるかもしれないが祟りが怖い、あれは悪魔の化身だから人の武器では倒せないのではと言い、誰ひとり工事に協力しようとしなかった。
そこで王子様は偉い神官を呼びよせ神事をおこない、竜の祟りがないように祈らせた。
そしてあらためて村人たちに水路の工事に協力するよう呼びかけた。
するとさらに村人たちは、冬に食べる保存食をつくる時期だから時間がない、水路ができても冬に飢え死にしたら意味がないと言い、誰ひとり工事に協力しようとしなかった。
しかたなく王子様は城に備蓄されている食料を取り寄せ、保存食をつくらなくとも冬を越せるようにした。
そしてあらためて村人たちに水路の工事に協力するよう呼びかけた。
そうなると村人たちは、本当に工事は成功するのか、水路をつくると沼の水が枯れるのではと言い、誰ひとり工事に協力しようとしなかった。
さすがに王子様も呆れ、工事に協力しない者には罰を与えると御触れをだした。
これに村人たちも反発し、今のままでも自分たちは幸せだ、なぜこんな工事をする必要があるのかと大騒ぎした。
村長は慌ててなだめようとしたが、みんなで反対すれば怖くないと王子様に詰め寄った。
王子様はその集団を見わたし、面白がって騒ぎを煽る者を見つけだすと、真っ二つに斬って捨てた。
村人たちはあっけにとられたが、我に返ると急いで工事に協力しはじめた。
おかげで工事ははかどり、竜がでることもなく、祟りがおきることもなく、冬を迎える前には水路も出来上がった。
次の年、村の土地には十分な水が注がれ、作物もよく育ち、村人たちは豊かになった。
その後、王子様は王様となり民を豊かにしようと尽力する立派な王となった。
しかし国民からは怖い王様だと思われ、それが何より不満だったとか。
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