小さな悪魔
とある世界のおはなし。
ある家の屋根裏に悪魔が住んでいた。
悪魔といっても小さいのでたいした魔力もない。1日に1度、イヌやネコなどの小さなものに化けて人を驚かすくらいだ。
そんな小さな悪魔が苦手なのが『1年で最後の日』だ。
その地域では『1年で最後の日』に地獄の悪魔が地上にでてきて悪さをすると信じられていた。
だから悪魔が嫌いだといわれるニンニクを家に飾る。さらに子どもたちがさらわれないよう、男の子には牛の皮、女の子には羊の皮をかぶせ、動物のふりをさせるのが習慣だ。
そして年があけると、家族で牛や羊の肉を食べてお祝いする。そうすれば1年、健康に過ごせると云われていた。
小さな悪魔からすれば、悪魔はいつでも地上に出られるし、わざわざ子どもをさらなわい。
でもニンニクの匂いは苦手なので、その匂いがしない住処を探して屋根裏を出た。
雪の夜、どの家からも暖かい夕食の香りが溢れ、子供たちは牛や羊の真似をして遊んでいる。
その様子を小さな悪魔はうらやましく思ったが、どの家も大量のニンニクを使い夕食をつくっているのでたまらない。
「それほど嫌われることはしてないのに」
そう思いながら進むと、町はずれに匂いのしない家があった。
そっと窓からのぞきこむと、お母さんらしい人がベットで寝ていて、その横で小さな女の子が見守っている。
なるほど、お母さんが病気だからニンニク料理の嫌なにおいがしないのかと納得し、しばらく様子をうかがった。
するとお母さんが弱々しく『ごめんね、お腹すいたでしょ』とつぶやいた。
女の子は一瞬とまどったが『だいじょうぶ、あたしお腹すいてないから』と答えるが、お母さんは『ごめんね』とまた呟いた。
これに小さな悪魔は、あの子は本当はなにも食べていないなと思った。本当はひもじいはずだから、なにか食べものをあげれば家に泊めてくれるかもしれないと。
そこで小さな悪魔は、その家から小さな鍋を拝借し、別の大きな家へと向かった。
その家もニンニク臭くて気がとおくなりそうだが、台所に忍び込むと沢山の御馳走が用意されている。
少しくらいは大丈夫とクラクラしながら料理を鍋に入れると、急いで女の子の家に戻った。
コンコン。ドアをノックする音に女の子はドキッとした。『1年で最後の日』だから悪魔が自分をさらいに来たのかもしれないと。
またコンコンとドアがノックされる。女の子は泣きそうになった。すると今度は子供の声で『お願いあけて』と言ってきた。
女の子がホッとしてドアをあけると、小さな鍋をもった小さな男の子がいた。
「これ食べて」
男の子は鍋をさしだした。女の子が蓋をあけると、湯気といっしょに美味しそうなニンニクの匂いが広がった。
「ほんとうに食べていいの?」
女の子が唾をのみこみながら聞くと、男の子はクラクラしながら大きくうなずいた。
女の子の顔がパッと笑顔になると、男の子もなんだか笑顔になった。
しかし女の子はすぐ悲しげな顔にもどった。
「あたしさらわれるのかな」
「どうして?」
「あたし羊の皮がないから、悪魔にさらわれるのかな」
男の子は『そんなことないよ』と答えたが、女の子は目にいっぱい涙をためてつづけた。
「これを食べてお母さんが元気になっても、あたし悪魔にさらわれるのかな」
男の子は戸惑ったが『ちょっと待ってて』といなくなった。
女の子の家の裏にまわると、男の子は小さな悪魔にもどった。
どうにか女の子を安心させられないかと考えたが、もう魔力は残っていない。無理して何かに化けると戻れなくなってしまう。
どうにかならないかと考えながら、そっと家の中をのぞいた。
ちょうど女の子がお母さんに『どこかの男の子からもらった、お母さん食べて』と鍋をさしだしている。
お母さんは『あなたが食べなさい』と優しく言ったが女の子は聞かない。そこで2人で分けて食べようとなっていた。
そのとき、またコンコンとドアをノックする音がした。
女の子は、あの男の子がもどってきたと思い急いでドアをあけた。
するとそこには、角がついた立派な白い羊の皮が置かれていた。
手に取ると、今まで誰かが着ていたように暖かい。
これで悪魔にさらわれなくてすむと、女の子はすぐに羊の皮をかぶった。
お母さんは驚いたが、女の子は『あの男の子がくれんだよ。あの子、きっと天使様だったんだよ』とはしゃいだ。
女の子は羊の皮にくるまり、お母さんと一緒にあたたかく新年を迎えた。
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