小さな芽

 とある世界のおはなし。

春が来て野原に小さな芽が顔をだした。

あまりに小さく可愛らしいので、ネズミやキツネたちは気にかけた。

「ちゃんと育つかな」「どんな花が咲くのかな」

それを聞いて小さな芽は『がんばってみんなが喜ぶ花を咲かせよう』と思った。


夏がきて、秋がきて、小さな芽はすくすく育った。

それでも小さかったので、ネズミやキツネたちは気にかけた。

「もうすぐ冬だけど大丈夫かな」「春まで守ってあげないと」

それを聞いて小さな芽は『冬を越してみんなが喜ぶ花を咲かせよう』と思った。


しばらくして冬がきた。吹きすさぶ冷たい風に小さな芽は震えあがった。

するとネズミやキツネたちが代わる代わる温めてくれた。

「がんばって冬を越えるんだよ」「きっと花を咲かせるんだよ」

それを聞いて小さな芽は『絶対に負けないぞ』と思った。


そして春がきた。


小さな芽は相変わらず小さかったが、可愛らしい小さな白い花を一輪だけ咲かせた。

これを見て、ネズミやキツネたちはほほ笑んだ。

「なんて素敵な花なんだ」「ほんとうにがんばったね」

それを聞いて小さな芽は『みんなが喜んでる』と誇らしかった。


そして夏がきた。


まわりの草木は花を落し、太陽を浴びてすくすく育っていた。

だけど小さな芽は、まだ花を咲かせていたので、ネズミやキツネは驚いた。

「がんばり屋さんだね」「ぼくたちも嬉しいよ」

それを聞いて小さな芽は『ぼくは特別なんだ』とずっと花を咲かせたいと思った。


そして秋がきた。


さすがに小さな芽が咲かせた花も茶色くしおれていた。

まわりの草木は冬を乗り切るため大きくなっていたが、小さな芽は小さいままだったので、ネズミやキツネは心配した。

「花があると栄養を取られてしまう」「はやく花を散らして冬に備えないと」

それを聞いても小さな芽は『みんなが喜んでくれた特別な花なんだ」と花を手放さなかった。


そしてまた冬がきた。


とても厳しい冬だった。

茶色くしぼんだ花を咲かせたまま、小さな芽は枯れていた。



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