使役魔
とある世界のおはなし。
ある魔導士が『使役魔』を生みだすことに成功した。それは愚鈍だが、従順で力もつよく、なにより休まずに働く。
これをつかえば多くの人々が楽になる。そう思った魔導士はすぐ王に報告した。
王もこれを喜び、さっそく使役魔を増やすよう指示した。
国中の村で使役魔が使われるようになった。多くの農民が重労働から解放されて喜んだ。
ところが、しばらくすると貧しい農民が増えた。
これまで10人でやっていた仕事を、3人と使役魔1匹でおこなえるようになったので、7人の農民が仕事を失った。
これが国中でおき、貧しさから強盗となる者もいた。国民はいつ襲われるかと不安のなかで暮らすようになった。
そこで王は、仕事を失った者のため新たな農地を開拓するよう指示した。
そのための使役魔も生みだされた。
新たな使役魔は森を切り開き木々を運んだ。多くの貧しい民も参加し、またたくまに農地は広がっていった。
新しい土地で新たに農作業もはじまり、農業用の使役魔もさらに用いられた。おかげで国の収穫量はどんどん増えていった。
ところが、しばらくすると貧しい農民が増えた。
収穫量が増えても1人が食べる量は変わらない。食べきれないものを買う人はいない。だから農作物が売れない。売れないと腐り、捨てることになるので、安くても売ろうとする。
すると今までと同じように働いても儲からないので貧しい農民が増えたのだ。
貧しい者が増えると生きるため強盗する者もいた。国民はいつ襲われるかと不安のなかで暮らすようになった。
そこで王は、農作物を他の国に売るよう指示した。わが国では余っていても、たりない国は高くで買ってくれる。
そのための使役魔も新たに生みだされた。
新たな使役魔は大量の荷物を遠くまで運ぶことができた。ただ愚かで計算はできないので、誰かが一緒に行って代金を計算し受けとる必要はあった。
受け取った代金でその国の珍しいものを買い、帰りも使役魔が運び売った。
他国からお金や物が流れ込み国民は豊かになった。
この新しい仕事は儲かるので、農地を手放してもその仕事につく者が増えた。
手放された農地はべつの農民が買ったが、少ない人で広い畑を耕せるよう農業用の使役魔も増えた。
こうして国中が豊かになったが、人々は休む間もなく働いたため、だんだん疲れて元気がなくなった。病気になる者も増えた。
そこで王は、民が楽になるようもっと使役魔を増やすよう指示した。これまで1体1体手作りだったが、流れ作業で大量に生みだせるようになった。
すると今まで以上に使役魔が増え、人々の仕事を手伝うようになり、休む時間もふえて、遊んだり、のんびり過ごす時間もでき元気を取り戻した。
これを他国の人々が羨み、休みも多く儲かるならと移住するようになった。
しかし彼らは言葉が違うので、上手に使役魔を使えない。この国では使役魔が使えないと仕事ができない。
せっかく移住したのに仕事がないと、生きるため強盗する者もいた。国民はいつ襲われるかと不安のなかで暮らすようになった。
そのころ、ある魔導士が知恵のある使役魔を生みだすことに成功した。その使役魔は善悪の判断ができるので、王はそれを全国に配置するよう指示した。
知恵をもつ使役魔は休むことなく全国をパトロールし、ルールを守らない者を見つけると捕まえた。
当然、逃げる者もいたが、使役魔は疲れを知らずいつまでも追いかけてくる。だから誰も逃げられない。
おかげで強盗は減ったが、いつも使役魔に監視されているので、人々はだんだん息苦しくなっていった。
そしていつしか使役魔をつれて、外国に移り住む者が増えた。
国内の人が減ると、知恵のある使役魔が愚鈍な使役魔をつかい仕事をするようになった。
民の要求に応えつづけて疲れた王も、いつの間にか知恵のある使役魔に職務を譲りいなくなっていた。
気がつくとその国は使役魔の国になっていた。
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