黄金の女神像

 とある世界のおはなし。

 少年は両親が残した小さな畑を耕して暮らしていた。だが毎日おなじことの繰り返しに飽き飽きしていた。

 そんなある日、王様がお触れをだした。

~伝説に語られる『黄金の女神像』を見つけた者を姫の婿とする~

 少年の心は沸き立った。急いで家に帰ると仕度をはじめた。

 隣に住む少女が異変を感じやってきた。幼馴染で、いつもケラケラ笑う明るい娘だ。

 少年が『黄金の女神像』を探しに行くと言うと、少女は『誰も見たことがない物をなぜ探しにいくの』と怒り出した。

 『黄金の女神像』は海の彼方にそびえる山の頂にあり、見た者は誰もいないと云われる。だが少年は止まらない。

「もし姫様と結婚したら、お前を城の小間使いにして一生こき使ってやるからな」

 そう言い残して旅立った。


 まず街にむかった。旅に必要な物を買い足すためだ。

 街は高い石壁に囲まれ大きな門からでないと入れない。その門には常に衛兵がいて通る人々を監視している。

 少年が通ろうとすると、同じ年頃の大柄で強そうな衛兵が声をかけてきた。

「農民がひとりで街にくるなんて珍しいな。どうしたんだ?」

 少年が『黄金の女神像』を探しに行くためだと答えると、衛兵は『誰も見たことがない物をなぜ探しにいく』とフフンと笑った。

「もし姫様と結婚したら、お前を城の小間使いにして一生こき使ってやるからな」

 そう言い残して立ち去ろうとすると、衛兵は自分も行くと言いだした。

 門の前で通る人々を監視する、毎日おなじことの繰り返しに飽き飽きしていたが、仲間と旅ができれば面白いかもしれないと。

 『黄金の女神像』は早い者勝ちという約束で、2人は一緒に旅立った。


 少年と衛兵は街をでて山に入った。強そうな衛兵がいるので山賊に襲われることもなく進んだ。

 しかし山はいくつにも連なり簡単には抜けられず、野宿を繰り返しているうちに食料も尽きてしまった。

 空腹で座り込む2人に、同じ年頃の細身で俊敏そうな狩人が声をかけてきた。

「農民と衛兵がこんな山奥にいるなんて珍しいな。どうしたんだ?」

 少年が『黄金の女神像』を探しに行く途中で食料が尽きたと答えると、狩人は『誰も見たことがない物をなぜなぜ探しにいく』とニヤニヤと笑った。

「もし姫様と結婚したら、お前を城の小間使いにして一生こき使ってやるからな」

 そう言い残して立ち去ろうとすると、狩人は自分も行くと言いだした。

 山で獲物を探して狩る、毎日おなじことの繰り返しに飽き飽きしていたが、仲間と旅ができれば面白いかもしれないと。

 狩人は弓をかまえると鳥をたやすく射落とし2人に食べさせた。そして『黄金の女神像』は早い者勝ちという約束で、3人は一緒に旅立った。


 狩人のおかげで食料に困ることなく山を越え、港町にたどりついた。この海の向こうに『黄金の女神像』があると思えば旅の疲れも吹き飛んだ。

 しかし3人は、誰も海を渡る方法を知らないことに気づいた。

 途方にくれて海を眺めていると、同じ年頃の日焼けした精悍な漁師が声をかけてきた。

「農民と衛兵と狩人がこんな港町にくるなんて珍しいな。どうしたんだ?」

 少年が『黄金の女神像』を探しに行く途中で海を渡る方法が分からないと答えると、漁師は『誰も見たことがない物をなぜなぜ探しにいく』とカラカラと笑った。

「もし姫様と結婚したら、お前を城の小間使いにして一生こき使ってやるからな」

 そう言い残して立ち去ろうとすると、漁師は自分も一緒に行くと言いだした。

 海に出て魚を探し漁をする、毎日おなじことの繰り返しに飽き飽きしていたが、仲間と旅ができれば面白いかもしれないと。

 漁師の自慢の船で海を渡ることになり、『黄金の女神像』は早い者勝ちという約束で、4人は一緒に海に出た。


 それから何日も船は進んだ。しかし水平線しか見えなかった。

 初めての船旅ではしゃいでいた少年たちも、これほど沖に出たことはないという漁師の言葉に不安を感じはじめた。

 すると空模様が怪しくなり、ポツポツと雨がふりはじめた。運よく小さな島が見えたので急いで避難した。

 しばらくして雨はあがったが、4人は久しぶりの陸地を探検することにした。

 小さな島なので半日もあればまわれたが、その中心に小高い丘があったので『もしやあれが伝説の……』とワクワクしながら登った。だが『黄金の女神像』など当然なく、4人は急に力が抜けた。

 しかし少年が水平線の向うに山影を見つけると、急に息をふきかえし『あれこそ伝説の山に違いない』とさっそく船をだした。

 山はなかなか近づいてきてくれなかった。それでも交代で休まず船を操り、ついには山のふもとの浜にたどりついた。


 浜に上がると、その向こうに森が広がり、さらにその向こうに山がある。かなりの距離だとひと目で分かったが、それでも見あげるほどの高さに『これなら間違いない』と妙に納得して進んだ。

 森は深く険しかったが、それ以上に苦戦したのが、見たこともない大きな虫や獣だった。特にマダラ模様の獣は動きもはやく、力も強く、牙や爪も鋭く危険だった。4人は力をあわせて戦いながら進んだ。

 みんな疲労していたが山が近づくことを励みに進みつづけた。

 やっと森を抜け山を登りはじめると、木々はなくなり冷たい岩肌が目立つようになった。

 それでも4人は休むことなく登り続けた。足は重く、口数は減り、頭もうつろになっていたが、それでも歩き続けた。

 そしてついに山頂にたどり着いた。

 しかしそこには、岩と岩の陰にすがる弱々しい草しかない、荒涼とした場所だった。

 探さなくても何もないことが分かった。4人はその場にへたり込んでしまった。


 山頂の夜は特に寒かった。4人は身を寄せあったが、誰ひとり口を開かず、膝を抱えて時が過ぎた。

 日が昇り、沈み、また昇り……何度めかの朝日が昇った。

 いつもより暖かく、心地よい光が山頂を照らした。

 すると雑草だと思っていた草が一斉に小さな黄色い花を咲かせ、日の光をうけキラキラ輝いた。

 少年はふと、幼馴染の少女がケラケラと笑う姿を思いだした。

 ふいに立ちあがると、衛兵、狩人、漁師をはげまして皆で帰ることにした。

 『黄金の女神像』はなかったが、小さな黄色い花をつんで山を下りた。


 その後、彼らが無事に帰れたかは誰もわからない。しかし何年かのち、日の光に輝く小さな花が、その国の人々を和ませていた。


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