虫と小鳥と大鷲と星の精霊

 とある世界のおはなし。

 その世界は穏やかな気候と豊かな自然が広がり、生き物すべてを優しく育んでいた。


 ある日のこと、地面の虫たちのもとに1羽の小鳥がおりてきた。

「風がいつもと違う。雨が降る前に似ているけど、これは大雨になるかもしれない。危ないからはやくどこかに逃げるんだ」

 しかし地面の虫たちには風の違いが見えない。

「いつもと変わらないよ、小鳥は何を言っているの?」

 小鳥は何度も逃げるよう勧めたが、虫たちは「雨はいつでも振る」「小鳥は心配性だ」「もしかして僕たちをからかっている?」と笑った。

 そんな虫たちをあきらめて小鳥は飛び去った。


 小鳥は周辺でいちばん大きく立派な木に向かった。そこには他の小鳥たちも集まっており、枝葉に隠れるように身を寄せ合っていた。

 そこに大空から大きな鷲が舞いおりてきた。

「遠くに見える雲がいつもと違う。嵐のときに似ているけど、これは大嵐になるかもしれない。その大木でも危ないからはやくどこかに逃げるんだ」

 しかし低い空しか飛べない小鳥たちには遠くの雲が見えない。

「いつもこの木が守ってくれたよ、大鷲は何を言っているの?」

 大鷲は何度も逃げるよう勧めたが、小鳥たちは「大雨はたまに振る」「大鷲は心配性だ」「もしかして僕たちをからかっている?」と笑った。

 そんな小鳥たちをあきらめて大鷲は飛び去った。


 大鷲はその周辺でいちばん大きな山の断崖に向かった。そこには洞穴があり、その中に身を隠した。

 そこに星の精霊がおりてきた。

「上から見ると嵐の雲がいつもと違う。大嵐に似ているけど、これまで見たこともない大きさだ。この山も危ないからはやくどこかに逃げるんだ」

 しかし大空を舞う大鷲も雲を上から見ることはできない。

「いつもこの洞穴が守ってくれたよ、精霊は何を言っているの?」

 精霊は何度も逃げるよう勧めたが、大鷲は「嵐はたまに来る」「精霊は心配性だ」「もしかして僕をからかっている?」と笑った。

 そんな大鷲をあきらめて星の精霊は空へ戻っていった。


 しばらくして雨がふりだした。それはどんどん強くなり、川はあふれ出し、あっという間に水が地面を覆った。虫たちは逃げる間もなく呑みこまれた。

 それを見ていた小鳥は「あれほど言ったのに」と虫たちを哀れんだ。

 だが雨はいっこうにやまない。風もどんどん強くなり、木々を激しく揺さぶった。大木もついには倒れ、小鳥たちは逃げる間もなく押しつぶされた。

 それを見ていた大鷲は「あれほど言ったのに」と小鳥たちを哀れんだ。

 それでもまだ雨も風もつづいた。どんどん強さを増し、山肌を削り、土砂崩れがおき洞穴を塞いだ。大鷲は逃げる間もなく埋められた。

 それを見ていた星の精霊はただため息をついた。


 大嵐はなん日もなん日も続いた。そして以前のような穏やかな空が戻ってきた。

 地面を覆った水も引き、しばらくすると新たな虫たちが現れた。木々は新たな芽をだし、どこからか小鳥たちがやってきた。そしていつしか大鷲が舞い降りてきた。

 その様子を星の妖精はただ見つめていた。

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