運気の星

  とある世界のおはなし。

 商いを営む夫婦がいた。休まず働くがうまくいかず、借金だけが増えていった。

 このままでは夫婦で身を投げねばならぬと本気で考えはじめたある夜、女房の枕元に他界した父があらわれた。白髪の老人を探し相談しろと。

 目覚めると藁にもすがる思いで長屋を出た。


 いつも歩きなれた道を導かれるように右に左に歩くと『こんなところに家があったか?』と思える小さな家に着いた。 

 声をかけると中から白髪の老人が顔をだし『ここを見つける者がいるとは』と家の中に入れてくれた。

 中は外目より広く暗かったが、天井には満天の夜空のように星が瞬いている。老人はこの星は人の運気だと教えてくれた。運気の強い者の星は強く瞬き、運気の弱い者の星は弱く瞬くらしい。

 女房が夫婦の星を訪ねると、天井の隅に並ぶ消えそうな星を指さした。

 これでは上手くいくはずがないと、どうにか強い星にならないか相談したが、運気は天が定めるものだと首をふった。

 しかしこのままでは生きていけない。再度頼むと、運気を強くはできないが生まれる前の強い運気は借りられると答えた。

 ぜひそれをお願いしますと土下座すると『これも何かの縁だ』と、中心でひときわ強く輝く星を夫婦星の近くに移動させた。

 そしてこう告げた。『この星は10年ほどで生まれるが、その時は運気を返すように』と。


 女房は家に帰ると亭主にこれまでのことを伝えた。すると『10年でも運気が上がればよいな』と笑った。

 しかし翌日から、見違えるように商売が繁盛した。

 おかげで借金もなくなり、どんどん店が大きくなり、立派な屋敷をかまえ人を雇うほどになった。

 そして10年がたった。

 女房の枕元にまた父があらわれた。もうすぐ星の持ち主が生れるので運気を返す用意をするようにと。

 これを亭主に告げると『そんな夢を信じて店を手放せと?』『そもそも誰に返すのか?』『店が繁盛したのは努力の結果だ』と納得しなかった。

 そんな折、女中のひとりが妊娠していることが分かった。相手は誰かもわからない。

 もともと要領が悪い女中で、身重だとさらに働けない。亭主はよい機会だと彼女をクビにした。

 女中は頼る者もなく追い出されたら生きていけないと懇願し、女房も可哀そうだと反対したが、亭主はいっさい聞き入れなかった。

 しかたなく女房は、こっそり貯めていたお金をつかい、内緒で彼女の面倒を見た。

 おかげで元気な男の子が生まれた。女房は孫が生まれたようだと喜んだ。


 ちょうどその頃から商売が傾きはじめた。

 亭主はなんとか立て直そうと事業を広げたが、どれひとつ上手くいかず借金だけが増えて行った。

 女房が運気を返すべきだと言うと、亭主は怒って口もきかなくなった。

 そして2人は離縁した。

 家を出た女房は行くあてもないので女と暮らすことになった。

 残ったお金で小さな店を開き、2人で切り盛りしながら男の子を育てた。

 けして豊ではなく、明日食べるものに困ることもあったが、不思議となんとかなった。

 月日がたち、男の子は立派な青年に育った。


 女房は年をとり、どうにも店を続けることが難しくなった。

 すると男の子が後を継いだ。次々と新しいことをはじめ、これが面白いようにあたる。

 みるみる店は大きくなり、気がつくと国一番の商売人となっていた。


 もうなにも心配することはなかった。女房はふと、自分はちゃんと運気を返せたようだと安心した。

コメント

このブログの人気の投稿

賛成する人を探す人

お金の好きな王、子供の好きな王

スマホ投票

始まりの木

慈悲の王